金融流行語、リバーサル・レートとは
金融流行語、リバーサル・レートとは
金融業界で「リバーサル・レート」という言葉が流行する兆しが出てきた。
日銀の黒田東彦総裁は2017年11月13日、スイスのチューリッヒ大学で講演した。
黒田総裁はこれまでのように日銀はインフレに向けて強力な金融緩和を継続すると発言した。
一方で、黒田総裁は大規模な金融緩和に伴う過度な金利低下は金融機関の収益にとってマイナスの影響もある「リバーサル・レート」の議論が注目を集めていると述べた。
黒田総裁はリバーサル・レートについて「金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方」と説明した。
(講演:「量的・質的金融緩和」と経済理論)
これまで金融緩和の副作用の議論に深入りしてこなかった黒田総裁には珍しく、金融業界で「リバーサル・レート」が流行語になっていきそうだ。
リバーサル・レート、米プリンストン大学のブルネルマイアー教授が考案
リバーサル・レート(The Reversal Interest Rate)は米プリンストン大学のマーカス・ブルネルマイヤー(Markus K. Brunnermeier)が考案した概念。
2008年のリーマン・ショックによる金融危機以降、日本や米国、欧州では中央銀行による国債の大規模な買い入れなどにより、市場にマネーが流れるような金融緩和を実施してきた。
その結果、世界の主要各国の金利は歴史的なレベルまで低下している(国債の人気が高い)。
ここで、ブルネルマイアー教授は金利がある一定水準まで下回ると、金融政策が意図した効果を「逆転」してしまうと主張する。
金利が下がると銀行が預金者に金利を支払い、貸出先から金利を受け取る利ざやが縮小して採算が悪化する。
この結果、金融緩和が銀行の貸し出しなどに悪影響を与えて経済の足を引っ張ってしまうという。
ブルネルマイアー教授はリバーサル・レートが発生する要因を3つ上げている。
1、銀行が持つ固定金利(変動しない)の保有資産
2、金利の預金金利に対する転嫁の度合い
3、金融機関が国から受けている規制
ブルネルマイアー教授はその国の金融機関の体力や規制の度合いによってリバーサル・レートは異なると述べている。
日本の現状を考えれば、短期や中期の金利はマイナスになっており、ほぼゼロの預金金利よりも下のために「リバーサル・レート」に直面している可能性はある。
ただ、黒田総裁は日本については「金融機関は充実した資本基盤を備えているほか、信用コストも大幅に低下しており、現時点で、金融仲介機能は阻害されていません。ただし、低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、引き続き、こうしたリスクにも注意していきたい」と説明している。