コインチェックと仮想通貨NEM(ネム) 88円を巡る3つのシナリオ
コインチェックと仮想通貨NEM(ネム) 88円を巡る3つのシナリオ
コインチェック騒動が落ち着いた時に仮想通貨の市場はどう動くのか。
特にコインチェックからハッキングで時価580億円が不正流出した仮想通貨「NEM(ネム)」の動向に注目が集まる。
コインチェックは既に不正送金された総額5億2300万XEM、約26万人の保有者に対して単価88.549円(463億円)を日本円で補償すると発表している。
一方、コインチェックでの事件発覚後に仮想通貨の相場は大幅に下落、2月に入ってネムの単価はコインチェックの補償額88円を大きく下回る展開だ。
コインチェック騒動が落ち着いた後、ネムの価格次第で3つのシナリオが考えられる。
目次
・前提
・ケース1、ネムの価格が88円より低下
・ケース2、ネムの価格が88円前後
・ケース3、ネムの価格が88円より上昇
前提
3つのシナリオの前提としてコインチェックが無事に営業を再開できたとする。
コインチェックは宣言通り、自己資金にてNEM保有者に単価88.549円にて各自のコインチェックウォレットにJPY(日本円)で返金する。
不正送金された総額5億2300万XEMについてはNEM財団などや各国の警察が調査するも捜査は難航、犯人が特定できるかは不明のまま。
ただ、不正流出した総額5億2300万XEMのほとんどは法定通貨への変換は防げている状態を想定する。
ケース1、ネムの価格が88円より低下(ネム=50円など)
コインチェックの営業再開時にネムの価格が88円より下落していた場合は、ネムへの投資戦略は「買い」が考えられる。
事件発覚後と営業再開後を比較してネム相場にとってプラス材料が増えるからだ。
事件発覚前のネムの発行数量は上限の約90億XEMだった。
不正ハッキングにより市場に出回るネムの発行数量は理論上は約85億XEMに減って需給が引き締まった状態になる。
コインチェックの営業再開後、もともとネムを持っていた人の数量は日本円に変わってしまっているためにネムの売り圧力は増えない。
ネムを88円で補償された投資家はその時点の市場価格でネムを売るよりも得をする。
日本円でネムに再投資すればその時点では市場価格よりも大量の数を確保できるため不満の声も小さいだろう。
事件によってネムの知名度が上がったと楽観的に考える投資家がある程度いればネムの価格には上昇期待も集まる。
仮想通貨市場に嫌気がさしてコインチェックに預けていたビットコイン(BTC)やリップル(XRP)などを売却する投資家が考えられるため、ネム以外の仮想通貨にとってはコインチェック営業再開で売り圧力が増えそうだ。
もっとも、ハッキングの犯人が手にした総額5億2300万XEMが売却される可能性は常に残る。
犯人と見られるアカウントからネムの移動があるたびに「犯人がネムを売却できたのではないか」との予想から相場が下落する危険性と常に隣り合わせになる。
ケース2、ネムの価格が88円
コインチェックの営業再開時にネムの価格が補償単価と同じ88円だった場合は、ネムへの投資戦略は「様子見」だろう。
この場合、ネムを持っていた投資家にとってはコインチェックの営業再開と同時にネムを市場で売ったのと同じことになる。
現時点でもネムをテックビューロ社の仮想通貨取引所「Zaif(ザイフ)」で売買できるのと状況は変わらない。
相場のプラス材料が、補償された日本円を手にした投資家がネムに再投資する可能性があるのはケース1と同じ。
ただ、ケース1ではネム保有者が市場価格よりも得をする一方、ケース2ではネム保有者からの裁判リスクが高まる。
コインチェックはネムの不正送金に伴う補償単価を事件発覚後に価格が急落した88円に設定した。
株式市場で会社が有価証券報告書の虚偽記載をして株主から損害賠償を受けたケースでは賠償額を「虚偽記載と無関係な公表前の価格」と認定したケースがある。
コインチェックの事件発覚前にはネムの価格は100円を上回っていたため、コインチェックに対して損害賠償請求をする投資家は増えそうだ。
この場合、仮想通貨市場の先行き不透明感が強まるためにネムも含めて仮想通貨に投資をしにくい状況が続く。
ケース3、ネムの価格が88円より上昇(ネム=200円など)
コインチェックの営業再開時にネムの価格が補償単価の88円より明らかに上だった場合は、ネムへの投資戦略は「裁判の様子見」だ。
例えばネムの市場価格が200円だった時に88円の単価で補償された場合、投資家たちは明らかに損をしたと感じる。
ネムのまま補償されれば、その時点でネムを売却したほうが日本円が多く手に入るからだ。
コインチェックに資金を凍結されて日本円の出金もできず、仮想通貨の売買をするチャンスも失われた投資家の多くの怒りの声が裁判上に持ち込まれる可能性が高い。
実際にコインチェック原告団設立準備会が2月3日にミーティングを開始した。
コインチェックでのハッキング被害は580億円で対象者26万人と2014年のマウントゴックス経営破綻を超える過去最大の規模であり、裁判は長期化が予想される。
損をしたと感じながらネムに再投資する投資家も少ないと見られ、ネムの相場は不安定な状態が続きそうだ。
ただし、ネムの価格の違いによる上記3つのケースがどうであれ、仮想通貨市場は基軸通貨になっているビットコイン(BTC)価格の変動を大きく受ける。
ネム固有の理由よりも、ビットコインの変動の影響が大きいことは常に考慮にいれる必要がある。